





マグロをとことん楽しむ 5本
職人醤油 No.
刺身の定番といえば─やっぱりマグロ
一年を通して手に入りやすく、赤身・中トロ・大トロと、部位ごとに違ったおいしさが楽しめる魚です。赤身はさっぱり、中トロは脂のコク、大トロはとろけるような濃厚さ。ひとつの魚でここまで味に幅があるのは、マグロならではの魅力です。ただ一方で、赤身を中心に「鉄っぽさ」や「血の風味」といった、マグロ特有のクセを感じることもあります。それをおいしさに変えるか、ちょっと気になるままで終わるかは、実は醤油次第。基本的にマグロは、濃厚な再仕込醤油や溜醤油との相性が良いですが、その中でもこの醤油がおすすめ!という5本をセレクトしました。
つれそい/南蔵商店(愛知県)
1本目は【まずはこれから始めよう!刺身入門編】のセットにも入っている溜醤油の「つれそい」。溜醤油は、大豆の割合が多く、仕込み水は少なめ。さらに、長い時間をかけてじっくり熟成されるため、色も濃く、どろっと濃厚で、うま味は醤油の中でもトップクラスです。よく、「九州の甘くてとろっとした醤油=溜醤油」と思われがちですが、実はそれは別物。溜醤油の主な産地は中部地方で、塩分濃度は濃口醤油とほぼ同じ。決して甘い醤油ではありません。ただ、その濃厚なうま味を、味覚として「甘さ」と感じる方もいらっしゃいます。これは、砂糖のような甘さとは違う、素材の奥にあるまろやかさのようなものかもしれません。
「つれそい」は、愛知県産の丸大豆を100%使用したグルテンフリーの醤油です。仕込みには、大豆に対して水を半量しか使わない「五分仕込み」という方法を採用。そのため、うま味がぎゅっと詰まった濃厚な仕上がりになっています。また、桶の底から滴り落ちる濃厚なエキス(生引き)と、諸味を圧搾したものをブレンド。どろっと真っ黒な溜醤油ではなく、赤褐色でキレが良く、フルーティーな香りと14〜15%という低めの塩分が特徴です。
おすすめしたいのは、赤身の刺身。食べた瞬間、魚よりも先に醤油のうま味がじんわり広がり、赤身の持つ血の風味や生臭さをしっかりと消してくれます。後味には、醤油の濃厚な余韻がふわっと残ります。とはいえ、「つれそい」は力強いだけではありません。とろみもほどよく、あっさりとした赤身をおいしくしてくれるちょうどいい濃さなのです。
みのび/山川醸造(岐阜県)
2本目は、先ほどの「つれそい」と同じく溜醤油ですが、タイプはまったく異なります。その名は「みのび」。職人醤油で取り扱っている溜醤油の中で、一番どろっとした食感と、香りも際立って強いタイプ。岐阜県産の丸大豆と塩、長良川の伏流水だけで仕込み、杉の木桶で2年以上じっくり熟成させた、グルテンフリーの醤油です。特徴は、なんといっても蔵独特の香り。良い意味での大豆臭さがクセになります。一度使えば、なかなか手放せなくなる…そんなインパクトのある一本です。この香りの強さは、実はかなり頼りになります。
たとえば、スーパーで閉店間際に値下げされていた赤身のお刺身。「ちょっと水っぽいかな?」というときでも、「みのび」の香りがうまくマスキングして、むしろおいしく食べられてしまうんです。さらにおすすめなのが、酒とみりんを合わせて漬け丼にすること。どろっと濃厚なうま味があるから、色合いはしっかり濃くなりますが、塩気はまろやかで、マグロとの一体感が見事。香りと味わいのコクで、ごはんが止まらなくなりますよ。
三年熟成しょうゆ/森田醤油(島根県)
3本目は、溜醤油と同じく濃厚な味わいながら、塩分控えめな「再仕込醤油」です。通常の濃口醤油は、麹に塩水を加えて仕込みますが、再仕込醤油では塩水の代わりに、すでにできあがった濃口醤油を使って仕込むという、二段仕込みの製法。つまり、「醤油で醤油を仕込む」ことで、塩分は控えめなのに、うま味とコクがぐっと深まるのです。溜醤油は大豆のうま味に特化したストレートな濃厚さが魅力ですが、再仕込醤油は大豆と小麦を同量使用。濃口醤油のような香ばしさと甘みも備えた、バランスのいい濃厚さと控えめな塩分が特長です。
「三年熟成しょうゆ」は、リピーターさんはもちろん新規のお客様からも指名買いの多い、島根県の森田醤油が手がけています。お客様からは「ここの醤油を使ったら他の醤油は使えなくなったのよ」とか「ここのは安心して使えるのよね」と言っていただくことが多く、一度味わうと他に浮気ができなくなるそんな醤油蔵です。仕込みに使う塩水(汲み水)の量もポイント。通常の濃口醤油では「11~13水(=原材料の1.1~1.3倍の塩水)」が一般的ですが、森田醤油ではあえて「10水」に抑えています。汲み水を減らすことでうま味が濃縮され、量より質を追求した味わいに仕上がっています。私自身、この醤油のファンのひとりです。再仕込醤油ならではの濃厚なうま味と深いコクはもちろん、強すぎないすっきり感と余韻のまろやかさは格別。
おすすめの使い方は、中トロや大トロのお刺身。醤油のうま味が前に出すぎないので、マグロの脂の甘さをしっかり引き立ててくれます。香りも上品なので、産地にこだわった高級マグロに添えても、魚の香りを邪魔しません。控えめだけど、しっかりと美味しい。そんな再仕込醤油の魅力を、ぜひ味わってみてください。
甘露醤油/大久保醸造店(長野県)
4本目は、先ほどの「三年熟成しょうゆ」と同じく再仕込醤油ですが、タイプはまったく異なります。その名は「甘露醤油」。この醤油を手がけるのは、長野県の大久保醸造店。蔵の原材料置き場には、大豆や小麦、塩や米がずらりと並び、どれも産地・等級がきちんと記載されたこだわりの原料ばかり。地元長野の「つぶほまれ」「ギンレイ」「タチナガハ」や、青森の「オクシロメ」「リュウホウ」、新潟の「エンレイ」など、岐阜・石川・山形など各地の選び抜かれた大豆がぎっしり。塩は沖縄の「シママース」を使っています。一年醸造の諸味に醤油麹を加え熟成、濃厚で香り高く発酵の奥深さを実感できる三年熟成の再仕込醤油です。さらに特徴的なのが、甘酒を加えていること。そのため、米由来のやさしい甘みと、再仕込醤油ならではの濃厚さ、そしてとろっとしたコクが絶妙に調和した、他にはない独特の味わいです。印象としては、「再仕込醤油以上、溜醤油未満」といった立ち位置。再仕込醤油の中ではかなりインパクトの強いタイプで、しっかりと醤油らしさを楽しみたい方にぴったりです。
醤油感がしっかりで、中トロも赤身も大トロも、どの部位も食べたい方におすすめ。魚の生臭さをきれいに消しつつ、醤油のコクがぐっと広がる。マグロのうま味を引き立てながらも、ちゃんと醤油の存在感も感じられる。そんな絶妙なバランスです。この濃厚さにハマると、もう他の醤油ではマグロが食べられなくなるかもしれません。
京丹波六右エ門 黒大豆みそたまり/末廣醤油(兵庫県)
5本目は、少し変わり種の一本。濃口醤油に、丹波の黒大豆味噌からとれる「みそたまり」をブレンドした、その名は「京丹波六右エ門 黒大豆みそたまり」。「みそたまり」とは、味噌の熟成中に表面に染み出してくる、うま味のかたまりのような液体。この醤油に使われているのは、京都・亀岡の片山商店が手がける天然醸造の黒大豆みそたまり。しかも、使用している黒豆は最高級とされる丹波黒豆、そこに極上の米麹を贅沢に加え、一年以上かけてじっくりと熟成させたもの。そのみそたまりを、30%以上も国産丸大豆・小麦の天然醸造醤油にブレンドして仕上げています。結果として生まれるのは、醤油の塩角がとれたまろやかさと、甘み・香りのバランスが絶妙な醤油。
おすすめしたいのは、中トロや大トロのお刺身。特に、旬のマグロが手に入ったときや、ちょっと奮発して買ったデパ地下のマグロには、ぜひ合わせてみてください。醤油そのものはすっきりとしていて、味が濃いわけではありません。でも、魚の脂にじんわりと溶け込みながら、甘みとコクを引き立ててくれる、そんな存在。押しつけがましくないのに、しっかり美味しい。まさに寄り添うタイプの醤油です。脂ののった魚に合うので、マグロ以外にも、鯵(あじ)・鯖(さば)・鰤(ぶり)などの青魚の刺身にもおすすめ。いつものお刺身が、ちょっと特別に感じられる一本です。
文:もーり(職人醤油)
オプションを選択





