





甘い醤油で刺身が食べたい! 5本
Shokunin Shoyu No.
甘口醤油について
実は、日本農林規格(JAS規格)には「甘口醤油」という定義はありません。けれど、九州や北陸などの地域では、しっかり甘さを感じる醤油が刺身用として親しまれてきました。職人醤油では、原材料にアミノ酸液と甘味料が加えられている醤油を「甘口醤油」としてご紹介しています。
製法で分けると、
・本醸造
・混合醸造
・混合
という3つのタイプがありますが、アミノ酸液を使った「混合」「混合醸造」のものが「甘口醤油」にあたります。アミノ酸液そのものに甘みはついていないのですが、甘味料を併用することが多く、しっかりとした甘さのある醤油に仕上がります。なお、これらの添加物は、しょうゆのJAS規格で使用が認められているものです。添加物が使われているからといって、醤油の良し悪しをそれだけで判断することはできないと思っています。よく「安く作るために添加物を使う」と思われがちですが、実はその逆。添加物を使うことで、むしろ製造原価が上がることもあるのです。
天龍/吉永醸造店(鹿児島県)
1本目は、「刺身用の甘口醤油が欲しい」と聞かれた時に、まずご紹介している醤油。鹿児島県鹿児島市にある吉永醸造店の定番商品「天龍」です。醤油のコク、程よい甘さ、とろみのバランスが絶妙。甘さはしっかりあるのにしつこくなく、とろみがあることで口当たりもやさしく、余韻までまろやかに残ります。
赤身の刺身、特にマグロやブリとの相性が抜群。赤身の力強いうま味に、「天龍」の甘さとコクが寄り添い、味わいに厚みが加わります。さらにこのとろみが、刺身によく絡んで一体感を演出し、噛むたびにうま味が広がります。
さしみしょうゆ/吉村醸造(鹿児島県)
2本目は、先ほどご紹介した「天龍」と同じ鹿児島県の甘口醤油ですが、こちらはいちき串木野市の吉村醸造が手がける1本。地元では「サクラカネヨ」の名で親しまれています。ベースとなっているのは、二度仕込んだ再仕込醤油。甘さがあるのに、それ以上に深いコクと濃厚さが際立つ、どろっと系の甘口醤油です。
脂ののったマグロの赤身や、馬刺しなど、しっかり味のある食材におすすめ。この味の濃さが、素材のうま味とぴったり調和して、食べごたえのあるおいしさになります。他の甘口醤油では味わえない、このどろっとしたうま味と甘みのバランスにハマる方が多く、「同じ刺身でも、いろいろな甘口醤油で食べ比べるのが楽しい」と、自宅に常備しているという方も少なくありません。
大野のおしょうゆ/野村醤油(福井県)
3本目は、北陸・福井県の野村醤油が手がける甘口醤油。福井の大野といえば「北陸の小京都」と呼ばれる城下町。冬には雪深くなるこの地で、地元の食文化に根ざした味わいの1本です。九州の甘口醤油と北陸の甘口醤油を比べると、甘さの度合いに関わらず、特徴的な違いがあります。九州の甘口醤油は甘さが先に来て、そのあとから醤油の味わいを感じます。一方、北陸地方の甘口醤油は醤油の味わいが先に来て、あとから甘みが追いかけてくるような味わいです。「大野のおしょうゆ」は、最初にほんのりとした塩気を感じ、そのあとに口いっぱいにやさしい甘さが広がっていきます。どちらかが主張しすぎることなく、やさしく調和しています。
特におすすめなのがイカの刺身。甘みがイカのうま味をぐっと引き立ててくれて、イカ本来の食感も最後までしっかり楽しめます。「赤身の刺身に甘口を合わせたいけど、あまりこってりした甘さはちょっと…」という方にも、ぜひ一度試していただきたい1本です。
ふしいち 桐/鷹取醤油(岡山県)
4本目は、岡山県・鷹取醤油が手がける、地元で広く親しまれている甘口醤油。「ふしいち 桐」は、さっぱりとした醤油の風味にやさしい甘みが重なり、あと味まで軽やかな印象。色味は、淡口醤油と濃口醤油のちょうど中間くらいの明るい色合いです。これまでご紹介した3本と比べると、ぐっと軽やかな味わいなのが特徴。
おすすめは、白身の刺身。鯛やヒラメなど、繊細な魚の味わいを邪魔せずに、やさしい甘みでふんわりと包み込んでくれるような醤油です。さっぱり系の甘口醤油はいくつかあるのですが、「ふしいち 桐」はその中でも中間ぐらいの甘み。関東の方にも「これなら甘口でも食べやすい!」と好評で、リピーターも多い1本です。
垣崎醤油 こいくち木桶仕込み/垣崎醤油店(島根県)
5本目は、島根県邑南町・垣崎醤油店の木桶仕込みの甘口醤油。中国山地の自然に囲まれた蔵には、23本の大きな木桶がずらり。四国・中国地方産の丸大豆、島根県産の小麦、そして天日塩。麹づくりから自社で行い、約1年半、木桶でじっくり熟成された醤油に甘味料などを加え、地元好みの甘口に仕上げています。一般的な濃口醤油では塩気が立ちすぎる、でも九州の甘口醤油は甘すぎる…そんな方におすすめしたい、ちょうどいいバランスの1本。北陸地方の醤油よりも味わいが優しいのも特徴。まず口に広がるのは木桶熟成ならではのうま味と香り、そして余韻にふわっと広がるまろやかな甘み。甘さが前面に出過ぎることなく、うま味と甘さのバランスが絶妙なのです。
どんな魚とも相性が良く、甘口醤油の万能型ともいえる存在。特に、いろいろな刺身が並ぶ海鮮丼のような時には、この「こいくち木桶仕込み」が1本あると、全体がまとまりよくおいしく仕上がります。
文:もーり(職人醤油)
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