









白身の刺身を楽しむ 5本
Shokunin Shoyu No.
ふわりと寄り添うやさしい醤油
白身の刺身に合う醤油は、甘えびやホタテの刺身が好きな方も楽しめる味わいです。甘えびのねっとりとした甘さ、ホタテのやわらかく上品なうま味、そんな繊細な味わいを引き立てるには、塩気や香りが強すぎない、やさしい醤油がぴったり。
醤油味が強すぎない甘みのあるタイプや、まろやかに仕上げた淡口醤油を選んでいるので、素材のうま味を邪魔せず、ふわりと寄り添うような味わいになります。白身だけでなく、貝や甲殻類の刺身が好きな方にもおすすめのセットです。
淡紫/末廣醤油(兵庫県)
私、甘えびには衝撃を受けました。「甘えびって、本当に甘かったんだ……!」そう思わせてくれたのが、「淡紫」です。もう、これがないと白身の刺身は食べられない、そう感じてしまうほどの1本です。
1本目は、職人醤油で不動の一番人気を誇る「淡紫」。淡口醤油(うすくちしょうゆ)はその名の通り、色が淡いのが特徴ですが、実は塩分は濃口よりも少し高め。だからこそ、「薄口」という字は使っていません。原材料は濃口醤油と同じく、大豆と小麦を1:1の割合で使用。醤油らしい味わいはきちんとありながら、熟成期間が短いため、色も味わいもあっさりしているのが特徴です。
そんな淡口醤油の中でも、「淡紫」はちょっと特別な存在。天然醸造の淡口醤油に、米麹をドボンと直接加えて仕込んでいるのです。この米麹のやさしい甘みが加わることで、塩分が一般的な濃口醤油よりも控えめになり、とてもまろやかな味わいに仕上がっています。さらに、「淡紫」の蔵元・末廣醤油の特徴でもありますが、香りがとても穏やか。醤油味になりすぎず、やさしい香りで素材の味をそっと引き立ててくれます。だからこそ、白身の刺身との相性は抜群。タイ、ヒラメ、甘えび、ホタテ……そんな繊細な魚介の甘みやうま味を、「淡紫」はやさしく包み込むように引き立ててくれます。
生成り、うすくち/ミツル醤油(福岡県)
指名買いの多い、「生成り、うすくち」。自家製の甘酒を加えることで、しょっぱさの奥にまろやかな甘みが広がります。お湯で割って飲んでも美味しいほど、風味豊かな淡口醤油です。
2本目は、先ほどの「淡紫」と同じ淡口醤油ですが、少しタイプが異なります。淡口醤油の中ではややしっかりめの味わいで、一口目に感じる醤油らしさや塩気はしっかりと立っています。とはいえ、ただしょっぱいわけではありません。後味にはふわりと米のやさしい甘みが広がるのが、この醤油の大きな特徴。その秘密は、自家製の甘酒。糸島産の米を原料に、麹箱を使って丁寧に育てた米麹。それを水だけで仕込んだ甘酒は、清涼感のある上品な甘さが際立ちます。
同じ白身の刺身でも、魚の旬や脂ののりによって、醤油の感じ方も微妙に変わってくるはずです。また、気温が高くなってくると、人の味覚は本能的に少し塩気を求める傾向があります。もし「淡紫」ではちょっと物足りなさを感じたときは、「生成り、うすくち」をお試しください。醤油らしいうま味とすっきりとした淡口らしさを感じながら、素材の風味も存分に楽しんでいただけるはずです。
はさめず/福岡醤油店(三重県)
「甘口醤油は初めてでちょっと不安…」という方も、きっと違和感なく楽しめるはず。関東の方がそのまま味わっても違和感を感じないほど、ほんのりとした甘みが特徴だからです。
3本目は、甘口醤油の「はさめず」です。さっぱりとした甘口醤油の中では、一番甘さが控えめなタイプ。だしは入っていないのですが、一度味わったお客様からは「だしのようなうま味を感じました」という声も。そのくらい、うま味の奥行きもしっかりと感じられます。角がなくまろやかで、塩分も控えめ。だからこそ、白身魚のお刺身にぴったりです。
そのままかけるだけでも美味しいのですが、ぜひ一度試していただきたいのが、鯛の漬け丼。鯛の刺身にこの「はさめず」と卵黄を絡めて、ご飯にのせるだけ。甘口醤油と卵黄のコク、鯛の上品なうま味が見事に調和します。お好みでミョウガや大葉、すりごまなどの薬味をたっぷり添えるのも◎。そしてもう一段階楽しみたい方は、後半にだしをかけてお茶漬け風に。鯛のうま味と醤油の甘みがとろけあい、ほっとする美味しさです。
カネナしょうゆ/長友味噌(宮崎県)
口に入れた瞬間から後味まで、甘みをじんわりと感じられる1本。甘口醤油の魅力にハマった方には、このくらいの甘さがクセになるはず。その理由は「カネナしょうゆ」がただ甘いだけではないから!
4本目は、先ほどの「はさめず」と同じ甘口醤油ですが、こちらは最も甘みが強いタイプです。九州の甘口醤油ですが、とろっとしたタイプではなく、色は淡く質感はさらっと。さっぱりとした口当たりに、しっかりとした甘さが広がります。この醤油をつくるのは、宮崎県の長友味噌醤油醸造元。甘口醤油の中ではめずらしく、麹づくりから自社で手がけている蔵元です。麹に塩水を混ぜたものが諸味となり、宮崎の自然の四季の中で約1年間熟成の時を過ごします。搾ったのち、火入れ(加熱殺菌)の段階で宮崎特有の甘味づけを行い、瓶詰めされます。だからこそ、甘さの奥にきちんとしたうま味と醤油らしさがあるのです。
白身の刺身に合わせると、魚の繊細な味わいを引き立てながら、ふわっと広がる甘みが全体をやさしく包み込みます。刺身の脂やうま味と調和し、つけるだけで自然な一体感が生まれるのも魅力です。甘みのある白身を、甘口醤油で味わう。この楽しみ方、いちどハマると抜け出せないかもしれません。
しろたまり/日東醸造(愛知県)
新鮮なホタテには「しろたまり」を。「塩で刺身を食べる」感覚に近いですが、塩との違いは、小麦の甘みと香りがあること。この絶妙な甘みと香りが、ホタテをより引き立ててくれるのです。
5本目は、白醤油の中でも少し変わった存在の「しろたまり」。一般的な白醤油は、はほぼ小麦でつくられ、大豆はほんの少しだけ使われています。そのため白醤油は、深いコクよりも小麦由来の甘みや香り、そして塩気が主役。仕込み期間も2〜3ヵ月ほどと短く、素材の風味を活かすすっきりとした味わいと、澄んだ琥珀色が特徴です。そんな白醤油の中でも、「しろたまり」は少し特別で、大豆を一切使っていません。原材料は、小麦・塩・焼酎のみ。通常の白醤油は少しだけ大豆を使っているため、ほんのり「醤油らしさ」が感じられますが、しろたまりはそれがまったくありません。蔵元さんいわく、「おいしい塩水」っていう表現がぴったりなのだとか。小麦のやさしい甘みと香りがふわっと広がる、本当に不思議でおいしい塩水なのです。また、一般的にはカビの発生を防ぐためにアルコールを添加しますが、代わりに焼酎を使用しているのも特徴です。醤油らしさはありませんが、淡口醤油よりもさらに素材を引き立ててくれるのが、この「しろたまり」の魅力。
オリーブオイルやビネガーと合わせれば、カルパッチョにもぴったり。いつもの白身の刺身や貝類を、少し違う雰囲気で楽しみたいときは、ぜひこの「しろたまり」を試してみてください。
文:もーり(職人醤油)
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