















豚肉をとことん楽しむ 5本
Shokunin Shoyu No.
濃厚でやわらかくクセがない
広島県といっても、フェリーでしか行けない大崎上島にある岡本醤油醸造場。広島県竹原からフェリーで30分。瀬戸内海に浮かぶ人口約9,000人の島に、とっても素敵な醤油蔵があります。原材料は大豆・小麦・塩の全てが国産。昔ながらの杉桶で仕込む、天然醸造の醤油です。
30本の桶に仕込まれた醤油たちは、毎日、岡本さんたちに見守られながら、ゆっくりと熟成の時を過ごしています。昔ながらの醤油づくりを続ける蔵では、大量生産ができません。蔵を取り巻く自然環境や、蔵に住み着く微生物たちの性格にもよりますが、醤油の元になる諸味を熟成させる時、人が手をかけずにいると「産膜酵母」と呼ばれる白カビが発生してしまいます。それを防ぐために行うのが、攪拌作業。桶の中の諸味をかき混ぜる、大変な仕事です。20石の桶の容量はおよそ3,600㍑。3㌧を超える重さの諸味を、攪棒を使って手作業で混ぜます。その大変さは、想像に難くないと思いますが、この作業を3日ごとに、30本すべての桶に対して行うのです。しかも、桶ごとに熟成の進み具合も異なるため、諸味と対話をしながら、一つひとつ丁寧に攪拌していきます。
「手造り醤油かけ二段仕込み熟成三年」は、二年熟成させた濃口醤油に、もう一度麹を加えてさらに一年熟成した三年熟成の再仕込醤油です。濃厚でありながら柔らかく、クセがない味わい。再仕込醤油の入門編として、おすすめの一本です。
醤油の個性
あっさり ☆☆☆★☆ 濃厚
まろやか ☆★☆☆☆ シャープ
穏やか ☆★☆☆☆ 香り立つ
とんかつやアジフライは醤油派という方、けっこう多いですよね。優しくまろやかでクセがなく、やわらかい口当たり。濃口醤油だとちょっと物足りない…でも塩辛いのはイヤ、という方にぴったり。とんかつの衣にじゅわっと染みこんだ醤油のうま味がふんわりと広がり、お肉の味わいもちゃんと感じられます。付け合わせのキャベツにもよく合って、最後まで飽きずに楽しめるのもうれしいポイント。香りもおだやかなので、揚げたての香ばしさを引き立ててくれるのも魅力です。一度試したら「とんかつ=再仕込醤油」になってしまうかも。
復活した木桶仕込み醤油
元治元年(1864年)創業、160年の歴史をもつ奈良県の老舗・井上本店。6代にわたり醤油づくりを続けてきた蔵では、この50年ほど、開放型コンクリート槽を使って天然醸造の醤油を仕込んできました。高度経済成長期に多くの蔵で導入されたこの槽は、天然醸造を続けながら大量生産ができる点で重宝されてきましたが、近年その寿命を迎えるタイミングが訪れます。次の仕込み容器としてプラスチックや鉄製タンクが検討されたはずですが、吉川社長が選んだのは"木桶に戻す"という選択でした。手間がかかり、生産量も落ちる中での決断。その背景には、蔵に戻ってきた息子の修平さん・遼さんとともに「自分たちが食べて、本当においしいと感じる醤油をつくりたい」という想いがありました。
2022年、数十年ぶりとなる木桶仕込みの醤油「木まじめ」が誕生します。使用された木桶は、香川県小豆島のヤマロク醤油が開催した木桶オークションで入手したもの。数年実際に仕込みに使われていた桶で、すでにヤマロクの蔵付き微生物がある程度棲みついている状態の木桶です。ところが不思議なことに、その木桶で仕込んだ「木まじめ」にはヤマロクの味はせず、しっかりと井上本店の味わいがします。
もちろん、仕込みをはじめてまだ数年ということもあり、奥深さよりもすっきり軽やかな印象ではあります。でも、醤油の香りがしっかり強く、そこには確かに井上本店らしさが宿っているのです。この先、5年後、20年後、50年後――。木桶の中に住みつく微生物が育ち、木桶そのものが育ち、醤油の味わいも育っていきます。その変化を一緒に楽しめるのが、「木まじめ」ならではの唯一無二の魅力です。
醤油の個性
あっさり ☆☆★☆☆ 濃厚
まろやか ☆☆☆★☆ シャープ
穏やか ☆☆☆★☆ 香り立つ
さっと作れてごはんが進む定番おかず、生姜焼き。夜ごはんにはもちろん、お弁当のおかずにも大活躍ですよね。「木まじめ」は軽やかな味わいなので、生姜の香りを邪魔せず、しっかりと支えてくれます。煮からめるとコクが出て、ごはんが止まらなくなるおかずに。せっかくおいしい生姜焼きを作るのなら、生姜はチューブではなく、すりおろしがおすすめ。
ピリッとしたすりおろし生姜の香りと辛みを、「木まじめ」がそっと受け止め、バランスよく引き立ててくれるのです。ちょっと特別なブランド豚を買ったときにもぴったりですが、もちろんスーパーのお手頃な豚肉で大丈夫。焼く前にお酒をふって、軽く臭みを取っておくのがポイントです。
天然醸造味噌のうま味成分
「昔ながら」という言葉がぴったりの、秋田県にある石孫本店。小麦を炒るのに石炭を使い、米麹づくりには「麹蓋」を用います。博物館に展示されていてもおかしくないような道具の数々を、今もなお現役で使い続けている蔵元です。
味噌づくりは、米麹をつくることから始まります。麹蓋は室と呼ばれる部屋へ運ばれ、麹をじっくり育てます。床の穴に木炭を置き、天井の窓の開閉で温度を調節。夜中でも人が見守り、3日間つきっきりで世話をします。出来上がった麹は、30石(高さ約2m・約5000㍑)もの巨大な桶がいっぱいになるまで、蔵人が担いで何度も何度も往復して運びます。建物や道具を修繕しながら使い続ける石孫本店の姿勢は、蔵人一人ひとりの味噌づくりへの想いにもしっかりと息づいています。
「みそたまり」は、琥珀色をした天然醸造味噌のうま味成分。秋田県産の大豆と米でつくった味噌に、さらに米麹と沖縄のシママースを加えてもう一度発酵。甘さが抑えられ、うま味とコク、そして心地よい塩気が感じられる、上品な味わいです。搾り方にも特徴があり、力を加えて搾ると濁ってしまうため「さらし袋吊り」。圧力を一切かけず、自然に滴り落ちたものだけを瓶詰しているため、澄んだ琥珀色に仕上がっています。
醤油の個性
あっさり ☆★☆☆☆ 濃厚
まろやか ☆☆★☆☆ シャープ
穏やか ☆★☆☆☆ 香り立つ
「みそたまり」は、肉との相性が抜群。醤油よりも味のなじみがよく、素早く簡単に本格的な味付けができます。鶏の照り焼きや唐揚げもおいしいのですが、一番のおすすめは豚の生姜焼き。肉は焼き締まらず、ふっくら柔らかく仕上がり、やさしい塩気で豚の甘みがしっかり引き立ちます。醤油のように色が濃くないので、透明感のある美しい仕上がりになるのも魅力。
醤油では出せないこのうま味、一度作ればまた食べたくなること間違いなし。チャーハンの味付けや、マヨネーズに少し加えてディップソースにしたりと、醤油よりも少しあっさりとした味わいに仕上げたいときに大活躍しますよ。
徳島でつくる国産大豆の二年熟成
徳島県鳴門市。四国遍路(八十八ヶ所)の一番札所 霊山寺のほど近くに、文政九年(1826年)創業の福寿醤油があります。比較的甘い醤油が好まれる四国において、甘くないシンプルな味を守り続けています。江戸時代後期の創業以来、国産大豆と小麦を使い、天然醸造の醤油を造り続けてきました。福寿醤油のような歴史のある蔵で問題になりそうなことといえば、まずは代替わりのタイミングです。9代目・松浦亘修さんは、不動産営業として大阪・東京で8年過ごしたのち、2012年に蔵へ戻ります。先代の父からの言葉は「好きなようにやれ」のひと言のみ。「父は製造ひと筋。だからこそ、何を期待されているかは感じ取れました」と語る亘修さんは、自ら営業も担当。「生まれたときから食べてきたこの味をもっと多くのお客様に届けたい」と力を込めます。
国産の丸大豆・小麦・天日塩を使い、二年発酵・熟成させた、無添加・無着色の濃口醤油。 二年熟成ならではの力強いうま味がありながら、すっきりとしたキレの良さが特徴です。しょっぱさを感じさせないのは、味わいに深みがあるから。奥深さがありながらも、重たすぎない味わい。やさしく穏やかな香りも心地よく、料理全体を上品にまとめてくれます。
醤油の個性
あっさり ☆☆★☆☆ 濃厚
まろやか ☆☆☆★☆ シャープ
穏やか ☆☆★☆☆ 香り立つ
豚の角煮は、満足感のあるおかずの代表格だと、個人的には思っています。子供も大人も笑顔になる、そんな料理ではないでしょうか。時間をかけて、じっくりコトコト煮こむことで、はしを入れるとホロリと崩れるような、やわらかさに仕上がります。
「福寿」はうま味が深く、それでいて後味はスッとキレがある。だから、豚肉にしっかり味がしみ込んでも、くどくならず、心地よい甘辛味に仕上がります。生姜のピリッとしたアクセントも、うまく引き立ててくれるんです。角煮だけでなく、豚丼や焼豚、野菜の肉巻きなど、甘辛味が決め手の豚肉料理全般におすすめ。とくに、豚丼のご飯に染み込んだたれの美味しさといったら…。少し多めにたれを作って、最後まで味わい尽くすのも、贅沢な楽しみ方だと思います。
世界中から人気!四年熟成の再仕込醤油
香川県・小豆島にあるヤマロク醤油の再仕込醤油「鶴醤」。木桶仕込み醤油の代名詞ともいえる存在で、世界中からこの醤油を求めて来店される方もいるほどの人気銘柄です。
「孫の代にも桶仕込みの醤油を残したい」そう語るのは、ヤマロク醤油の五代目・山本康夫さん。その想いから2012年、地元の大工さんたちと共に、”醤油を仕込む木桶を自分たちの手でつくる”という挑戦を始めます。この取り組みは、のちに全国へ広がる「木桶職人復活プロジェクト」の始まりとなりました。木桶仕込みの醤油は、現在、国内流通量のわずか1%ほど。そのわずかな部分を小規模メーカーが奪いあうのではなく、連携して1%を2%にしようという取り組みが「木桶職人復活プロジェクト」です。今のヤマロク醤油では、100年以上使い込まれた木桶と、毎年つくられる新桶が混在する、全国でも珍しい光景が見られます。
「鶴醤」は、二年熟成させた濃口醤油に、さらに諸味を加え、再び二年熟成させた四年熟成の再仕込醤油。深いコクとまろやかさを極限まで追求しており、ほんのり甘みさえ感じられます。塩辛さが前に出ないので、”醤油のしょっぱさが苦手”な方にこそぜひ試していただきたい一本です。そして、なんといっても「鶴醤」の魅力はその芳醇な香り。口に含んだ瞬間、ふわっと広がる香りと濃厚な味わいに、「もう普通の醤油には戻れない」と言われるほどのインパクトがあります。
醤油の個性
あっさり ☆☆☆★☆ 濃厚
まろやか ☆★☆☆☆ シャープ
穏やか ☆☆☆☆★ 香り立つ
ジューシーで満足感があるのに、重すぎない。そんなポークステーキが食べたいときは、低温でじっくり焼いて、ふっくら仕上げるのがコツ。焼き上がったら、仕上げに「鶴醤」をひとさし。これが、たまらなく合うんです!
豚肉の脂には甘みがあるから、うま味が濃厚で塩角のない「鶴醤」との相性は抜群。厚みがあってもあっさりとした豚肉に、ちょうどよいコクと深みをプラスしてくれます。脂身までしっかり味わえるのに、後味はすっきり。お肉のうま味を引き立てながら、決して邪魔をしない。お互いがお互いを、おいしくしてくれる関係なんです。「鶴醤もおいしい!ポークステーキもおいしい!!」その両方を味わえる、贅沢なひと皿をぜひどうぞ。
文:もーり(職人醤油)
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